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大阪地方裁判所 平成5年(ヲ)5864号 決定

主文

一  相手方らは、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録一、二記載の各土地上に施工中の同目録三記載の建物の建築工事を中止し、これを続行してはならない。

二  相手方らは、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録一、二記載の各土地上において、自ら又は第三者をして新たな建物の建築工事その他一切の工事をしてはならない。

三  相手方らは、買受人が代金を納付するまでの間、一項の土地建物について占有を移転し、又は占有名義を変更してはならない。

四  執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、一項の土地建物について、相手方らが前三項の各命令を受けていることを公示しなければならない。

理由

一  事案の概要

申立ての趣旨は主文と同旨であり、申立人提出の疎明資料によれば、次の事実が認められる。

<1>  申立人は、平成二年一月一二日、別紙物件目録一、二記載の土地(以下「本件土地」という。)及びその地上建物につき所有者である相手方丙川地所株式会社から(以下「相手方丙川」という。)根抵当権の設定を受け、同日その旨の登記手続をした。

<2>  相手方丙川はその後地上建物を取り壊し、同年三月五日、申立人に対し、本件土地上に建物等を再築した場合には申立人に無断で第三者に譲渡したり担保に供したりせず、申立人の請求があれば、直ちにこれを担保に差し入れることを約した。

<3>  ところが、平成三年四月ころ、突然本件土地上にプレハブ建物が築造されて株式会社甲田名義で保存登記がされ、本件土地には同会社名義で地上権設定仮登記がされた。相手方丙川は、この件で、同会社を被告として建物収去土地明渡及び地上権設定仮登記抹消登記手続請求訴訟を提起している。

<4>  相手方丸善は、同年三月ころから申立人に対する支払を遅滞していたところ、同年八月五日銀行取引停止処分を受けて倒産した。

<5>  申立人は、平成五年三月三日、上記根抵当権に基づき本件土地につき基本事件の不動産競売の申立てをし、同年四月一二日開始決定がされ、翌一三日差押登記がされたが、そのころ上記プレハブ建物は空き家の状態であつた。

<6>  ところが同年九月末ころ、上記プレハブ建物の外壁が解体され、本件土地上に新たに別紙物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築工事が始まつていることが申立人に判明し、調査したところ、現在は鉄骨が組み上がつた状態にあり、建築確認は相手方戊田夏夫(以下「相手方戊田」という。)を建築主としていたが、施工業者は不明である。

<7>  相手方丙川は、申立人に対し本件建物について関与を否定しているが、積極的にこれを排除する行動には出ておらず、他方、相手方戊田は申立人との接触を意図的に避けている。

二  当裁判所の判断

(1) 相手方

売却のための保全処分の相手方は、民事執行法一八八条、五五条によれば文言上は債務者とされており、不動産競売においては所有者と読み替えることになるが、相手方丙川は本件土地の所有者であるから相手方となり得ることに問題はない。

問題は相手方戊田が相手方となり得るかであるが、まず、所有者以外の者でも所有者の使用人、家族などの占有機関や占有補助者については、それらの者の行為を所有者の行為の一態様として所有者の行為と同視することができる。この場合、相手方はやはり所有者とするのが理論的であるが、執行の際には外観上独立の占有者か否かの認定は困難であることからすれば、所有者の外にその占有機関や占有補助者を独立の相手方とすることも許されると解される。しかし、本件では相手方戊田と相手方丙川との関係は明らかではないから、相手方戊田を相手方丙川の占有機関ないし占有補助者ということはできない。

しかし、所有者や占有機関ないし占有補助者以外の者の行為であつても、正当な権利行使とはいえない執行妨害行為が放置されてよいはずはない。そこで、占有機関ないし占有補助者以外の者であつても、所有者の何らかの関与と行為者の執行妨害目的が認定できる場合には、その者を占有補助者と同視して相手方とすることができるとする見解がある。しかし、そこで要求されている所有者の関与とは行為の黙認程度のものでもよいとされているようであり、あるいは占有補助者を自称する者でもよいとする見解もある。しかし、五五条の文理にこだわるのであれば、当該第三者が占有補助者と同様に「所有者」と同視し得るかどうかが問題なのであり、所有者の「占有補助者」と同視できるかどうかという問題ではないのであつて、上記の見解によると本来の占有補助者とは異質な者をこれと同視することになる。また、所有者の関与を所論のように形骸化、希薄化するのであれば、もはや文理に拘泥して所有者との関係にこだわるのはかえつて不自然な感が強い。むしろ、所有者に許されないことが正当な権利を有しない執行妨害者に許されるはずはないのであるから、正当な権利行使と認める余地のない明らかな執行妨害を行う者については、端的に所有者と同様に相手方にすることができると解すべきである。

これを本件についてみると、本件建物については相手方戊田を建築主として建築確認がおりているのであるから、相手方戊田が建築の主体というべきであるところ、建築確認は平成五年九月八日付けで差押え後であり、工事に着手したのもその後であると推認され、登記簿や現況調査報告書の記載に照らしても相手方戊田が本件土地について何らかの申立人に対抗し得る権限を有することは全く考えられない。工事内容も基礎の貧弱なものと思われ、相手方戊田の申立人に対する対応からしても執行妨害目的であることは明らかであるから、相手方戊田も相手方となるというべきである。

(2) 価格減少行為

民事執行法一八八条、四六条二項によれば、所有者は差押え後は通常の用法に従つた使用収益以外は許されないから、差押え後に新たに建物を建築するのはそもそも許されない行為であり、法定地上権が成立する余地もないと解すべきであつて、本件土地の価格を著しく減少させるおそれのある行為である。

本件建物の建築工事の主体は上述のとおり相手方戊田と認められ、相手方丙川の関与は明確ではないが、少なくとも相手方戊田の本件建物の建築確認には協力していることが推認され、また、相手方丙川にとつても建築はそもそも許されない行為であるから、相手方丙川も行為者として相手方とすることに妨げはないと解すべきである。

(3) 処分の内容

上述した本件の経過からすれば、相手方らは今後新たな第三者に占有を移転し、第三者が同様な行為をするおそれがあると認められるから、相手方らに対しては、単に建築行為を禁止するだけではなく、本件土地建物の占有移転を禁止し、執行官にこれらの処分を公示させるのが相当である。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤道明)

《当事者》

申立人 株式会社甲野銀行

代表者代表取締役 乙山太郎

申立人代理人弁護士 河合伸一 同 菊元成典

弁護士河合伸一復代理人弁護士 仲田 哲

相手方 丙川地所株式会社

代表者代表取締役 丁原春夫 <ほか一名>

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